2022.11.03
《作品紹介》熊谷守一「夜の月」シルクスクリーン
「文化の日 名品展観《熊谷守一・前田青邨展》」を開催中です。
本展では 両画家の肉筆画15点を展覧していますが、
それとは別に、何点かの版画作品も展示しています。
熊谷守一「夜の月」シルクスクリーン
この作品は、熊谷守一先生の油彩画の名品「夜の月」を原画として制作された版画作品です。
原画の「夜の月」は、1961年、熊谷先生が81歳のときに描かれた油彩画です。
熊谷先生は、若い頃には青木繁と夜道を歩きながら光源について討論したり、過渡期にはものの影を省略したり逆に影を濃く描いたり、晩年には月や太陽のモチーフを描いたりと、初期から晩年までずっと「光」というものを特別に思っていました。
この作品もそうした「光」のシリーズのなかの1点です。
そして、この「夜の月」をもとに制作した作品がこの版画(シルクスクリーン版)です。
摺り師はアンディ・ウォーホルや草間彌生の版画も手掛けた石田了一氏にお願いをして、柳ケ瀬画廊が版元となり出版させていただきました。右下には著作権者(当時)の熊谷榧様に押印いただいた印もございます。
30万8000円(税込)で店頭にてご紹介しています。
ご興味ございましたらお気軽にお問い合わせくださいませ。
柳ケ瀬画廊 市川瑛子
2022.10.30
《ブログ》「もじもえもじも」展(西尾市岩瀬文庫)
柳ケ瀬画廊では「文化の日 名品展観《熊谷守一・前田青邨展》」を開催中です。
「美術の秋」を迎え、たくさんの美術展がはじまりましたね。
毎週のように各所の展覧会をまわることができて、とても楽しいです。
先日は愛知県西尾市にある「西尾市岩瀬文庫」に出かけてまいりました。
百年以上の歴史を持つ、日本初の古書ミュージアムです。
現在、「愛知県美術館・愛知県陶磁美術館 移動美術館」として、
企画展示「もじもえもじも」展が開催されています。
お出かけした日は、週末の「にしお本まつり」の準備で賑わっていました。
市民の方たちがワイワイ机や書籍を運んでいて、古書目録などもあり、楽しそうです。
「もじもえもじも」展。
「文字も絵文字も」「文字も絵も字も」「文字も絵も磁も」、
様々な区切りもでき、また、回文にもなっている面白いタイトルです。
展示点数は50点ほどですが、
文字と書物にまつわるテーマで、ほぼすべての作品に丁寧な解説文もあり、
展示全体がひとつの本のようにまとまっていて楽しかったです。
「書物に親しむ」というテーマでは、
小出楢重の読書する夫人を描いた油彩画から、
伝・加藤民吉の瀬戸焼で描かれている文人たちの姿、北斎漫画まで。
「物語」というテーマでは、
ココシュカの版画から、小川芋銭の描いた「金太郎とカッパ」まで。
(芋銭の小さなお皿のカッパがとても可愛いのです。)
8世紀の文房具などから、現代のアーティストまで、
たくさんの作家の作品を、いつもとは違った角度から楽しめる展覧会でした。
今まで存じあげなかった作家もいて、もっと作品を見たいと思って調べましたら、ちょうどこの冬に関東で個展を開かれるようなのでお出かけしてもっと拝見したいなと思ったりしています。
グループ展は新しい作品との出会いも素敵ですね(*^^*)
***ご紹介した展覧会の詳細***
展覧会名:「愛知県美術館・愛知県陶磁美術館 移動美術館 もじもえもじも」展
展覧会期:9月17日(土)から11月27日(日)まで
展覧会場:西尾市岩瀬文庫 企画展示室(入場無料)
西尾市岩瀬文庫さんの公式ウェブサイト
https://iwasebunko.jp
柳ケ瀬画廊 市川瑛子
2022.10.29
《ブログ》「藤島武二 スケッチ百花 大川美術館コレクションと名品の彩り」展(稲沢市荻須記念美術館)
柳ケ瀬画廊では「文化の日 名品展観《熊谷守一・前田青邨展》」を開催中です。
先日、稲沢市荻須記念美術館さんでひらかれている、
洋画家・藤島武二のスケッチ展に出かけてまいりました。
稲沢市出身の洋画家・荻須高徳を顕彰するため、1983年に開館した美術館です。
現在、同館では特別展・藤島武二展がひらかれていますが、
入館して右手側の展示室では荻須高徳作品もたくさん展示されていました。
現在は、荻須ゆかりの方からの新寄託・油彩画5点なども楽しめます。
荻須先生が暮らしたパリのまちには多くの観光名所もありますが、
荻須先生はパリの方たちが暮らしている日常の街並みを描いた画家です。
展示室でもパリの様子が生き生きと伝わってくるような作品が揃っていました。
受付の左側のエリアでは、今秋の特別展が開催されています。
「藤島武二 スケッチ百花 大川美術館コレクションと名品の彩り」です。
スケッチを中心に100点以上の藤島作品が鑑賞できました。
メインはスケッチ類ですが、油彩画も9点ほど飾ってあります。
東京国立近代美術館からきた「匂い」「アルチショ」、
藤島が教師として赴任していた三重にある三重県立美術館の「ローマ風景」などです。
メインのスケッチ類は、大川美術館(群馬県)のコレクションがきていました。
大川美術館は、ダイエーの副社長などを務めた大川栄二氏のコレクションの館です。
ピカソや松本竣介、山口薫、萬鉄五郎などの近現代の名品揃いの美術館で、
私も群馬まで足をのばしてコレクションを拝見に伺ったことがあります。
蛇足ですが、この大川美術館さんのモダンな設計は、
松本竣介の次男で建築家の松本莞氏が手掛けています。
そんな大川美術館さんからきているコレクションは、
渡欧期の貴重なクレヨンや鉛筆の作品から、
藤島の代表作であり切手にもなった「蝶」を連想させる蝶のスケッチ類、
そして、「洋画家・藤島武二」がもうひとつ持っていた「デザイナー・藤島武二」の顔がわかるようなアール・ヌーヴォーの影響を受けた木版画類まで、多彩で魅力的なものばかりでした。
これらのコレクションは、以前、安宅英一氏が所蔵していたそうです。
安宅英一氏といえば、美術界では有名なコレクターの方で、
現在、大阪市立東洋陶磁美術館が所蔵する世界随一の陶磁コレクションの旧蔵者、
山種美術館が所蔵する速水御舟の代表作「炎舞」などの旧蔵者として知られています。
そうした質の高いコレクションを引き継いだ大川美術館さんが、
安宅氏からバトンタッチされた藤島の画業の全貌を伝えるコレクションを、この東海地区で公開してくれるなんて嬉しいですね。美術品を次世代に伝えていくリレーの大切さを改めて感じた気がいたします。
会期中には学芸員さんのギャラリートークなどもあるそうです。
「藤島武二 スケッチ百花 大川美術館コレクションと名品の彩り」展のチラシは柳ケ瀬画廊の店頭でも配架しています。ご入用の際はお気軽にお持ちくださいませ。
***ご紹介した展覧会の詳細***
展覧会名:「藤島武二 スケッチ百花 大川美術館コレクションと名品の彩り」展
展覧会期:10月22日(土)から12月4日(日)まで
展覧会場:稲沢市荻須記念美術館
稲沢市荻須記念美術館さんの公式ウェブサイト
http://www.city.inazawa.aichi.jp/museum/
柳ケ瀬画廊 市川瑛子
2022.10.22
《作品紹介》熊谷守一「ばら」油彩画
画廊では「文化の日 名品展観《熊谷守一・前田青邨展》」を開催中です。
展覧会では画廊の中央あたりに、
熊谷守一先生の薔薇の油彩画を飾っています。
1963年、熊谷先生が83歳のときに描かれた作品です。
1960年代は最も多くの熊谷先生の油彩画作品が生まれた時代で、たくさんの名品が制作されています。また、この作品を描いた翌年にはパリのガルニエ画廊で個展がひらかれ、国内でも様々な場所で熊谷展がひらかれていました。
熊谷先生のなかで薔薇は賑やかなイメージだったのか、薔薇の絵は、他の花のモチーフと比べると、画面にビビットカラーが使われていたり、複数の花や動植物と組み合わせることが多い気がいたします。自宅の庭でたくさんの植物を手ずから育て、薔薇もお庭に植わっていた熊谷先生ですので、育てるなかで薔薇の瑞々しい生命力を感じていらしたのかもしれませんね。
柳ケ瀬画廊の「文化の日 熊谷守一・前田青邨展」は11月13日までの開催です。
この作品のほかにも熊谷先生の油彩画5点を展覧中です。
皆様の御清鑑を心よりお待ちしております。
柳ケ瀬画廊 市川瑛子
2022.10.15
《ブログ》「生誕140年 ふたつの旅 青木繁 坂本繁二郎」展(アーティゾン美術館)
柳ケ瀬画廊では「文化の日 熊谷守一・前田青邨展」を開催中です。
先日、久しぶりに東京の展覧会に出かけてまいりました。
東京駅すぐの「アーティゾン美術館」で開催中の、
「生誕140年 ふたつの旅 青木繁 坂本繫二郎」展です。
会場のアーティゾン美術館は、少し前までブリヂストン美術館だった場所です。2020年に全館新築でリニューアルオープンしたことにあわせて、アーティゾン美術館と改称し、以前と変わらず質の高い展覧会で多くのファンに愛されています。
ちなみにブリヂストンタイヤの創業者・石橋正二郎氏は、青木と坂本と同じ福岡県久留米市の出身でした。そのため、青木が早世したのち、彼を生涯のライバルとして思い続けた坂本が石橋氏に青木作品のコレクションを頼み、そのコレクションをきっかけとして石橋美術館・ブリヂストン美術館が開館したという経緯があります。そのため、アーティゾン美術館の青木・坂本展は特別な展覧会で、私も本当に楽しみにしていました。
上記作品は青木繁「わだつみのいろこの宮」(1907)です。
『古事記』に出てくる兄弟、海の漁が得意な兄・海幸彦と、山の漁が得意な弟・山幸彦が道具を交換したところ、山幸彦が兄に借りた釣り針をなくしてしまい、それを探すために海底に降り、海の神様の娘・豊玉姫と出会ったシーンを描いています。
青木繁というとプライドが高く傲慢な性格だったと言われることが多いですが、逆に自分自身に対してもとても厳しく、この神話の題材もよく調べて、青木なりにイメージを膨らませたことが伝わってきます。
上記作品は青木繁「天平時代」(1904)です。
今回の展覧会は青木の代表作のほぼすべて網羅されている展覧会で、青木繁の全貌が見られる展示でした。彼が得意としていた神話に類する作品も多く飾られています。
上記の「天平時代」や「運命」(1904)なども、青木なりの解釈がとても面白い作品です。
麗しい天平の女性たちが集まる「天平時代」は、中心で笛を吹く人物だけが赤く濃い輪郭線で描かれていて、その人にスポットライトが当たっているような雰囲気です。解釈もですが、「絵をこう見せたい/見てもらいたい」という青木の気持ちが伝わってくるようです。
上記作品は坂本繁二郎「放牧三馬」(1932)です。
晩年、周囲の引き留める声があったにも関わらず、九州の八女に戻って静かに制作をつづけた生き方にあらわれているように、穏やかだけれども芯の強い美しい作品がたくさん見られました。
坂本作品も、初期、渡欧期、渡欧後、八女時代、それぞれ充実のラインナップです。
子供のころから好きだったという馬を描いた「放牧三馬」は、美しいブルーの空と、白い雲と白馬、地面と馬の茶色で構成された優しいトーンの作品ですが、よく見るとエメラルドグリーンの瞳の色の強さにはっとさせられます。どの色と色を取り合わせるとお互いが引き立つかがよく計算されていて、坂本の色の使い方の巧さが感じられます。
上記は坂本繁二郎の果物や植木鉢などの壁面です。
ほかにも坂本が多く描いた能面ばかりを揃えたエリアもありました。
同じ場所には今回の展覧会にあわせて新収蔵されて青木繁の面に関する素描類も公開されています。青木の能面は見たことがなかったのでとても勉強になりました。
上記作品は坂本繁二郎「月」(1964)です。
坂本作品の晩年としては月の作品群が飾られています。
坂本といえば馬、能面、そして月をお探しのコレクターの方が多く、弊社でも昨年、2点の月の油彩画を扱ったときはお問い合わせをしばしばいただいていました。暈に囲まれた月の黄色にまず目が惹きつけられ、続けて周囲の雲や空の表現の奥行の深さに視線が動いて、絵のなかで旅できるような、ずっと見ていられるような魅力のあるシリーズです。
10月16日までの展覧会ですので、ギリギリで拝見できてよかったです。
青木繁は28歳という若さで亡くなっていて、対する坂本繁二郎は87歳まで生きて、かつ、最晩年まで描き続けることができたので、画歴や作品のボリュームは(坂本が寡作の作家だとしても)大きく異なりますが、それが全くマイナスに感じられないような「ふたつの旅」の展覧会になっていて、最初から最後まで楽しかったです。
展覧会は明日16日までの開催ですので、お気になられる方はぜひお出かけになってみてくださいませ。青木繁と坂本繁二郎のファンにはたまらない展覧会だと思います。
***ご紹介した展覧会の詳細***
展覧会名:「生誕140年 ふたつの旅 青木繁 坂本繁二郎」展
展覧会期:7月30日(土)から10月16日(日)まで
展覧会場:アーティゾン美術館
アーティゾン美術館さんの公式ウェブサイト
http://www.city.inazawa.aichi.jp/museum/
柳ケ瀬画廊 市川瑛子