柳ヶ瀬画廊

柳ヶ瀬画廊

創業大正8年
熊谷守一・香月泰男・藤田嗣治など
内外洋画巨匠作品取扱の老舗画廊

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2024.09.01

《ブログ》生誕130年記念 北川民次展(名古屋市美術館)

柳ケ瀬画廊では常設展を開催中です。
熊谷守一、三岸節子、加藤東一、日比野克彦、ミロなど、
多彩な作品15点を展覧しています。
ぜひお出かけくださいませ。

さて、先日名古屋市美術館で開催中の北川民次展に出かけてまいりました。
愛知県の瀬戸市、尾張旭市に暮らしていた縁で、この地域で収蔵や展示研究が盛んな洋画家・北川民次の生誕130年記念の節目の展覧会です。


会場の名古屋市美術館は、緑豊かな白川公園内にある美術館です。
公園内には野外彫刻がたくさん置かれていて、美術館の入口ではいつも風で動く彫刻「ファブニールドラゴン」(アレクサンダー・カルダー作)が出迎えてくれます。この作品を見ると名古屋市美術館に来たなと感じる作品です。

北川民次展は約180点もの作品・資料が見られる充実の内容でした。
美術館の1階・2階・地下に作品が展示されています。

民次は1894年に静岡の製茶業も営む地主の家の8人兄弟の末っ子として生まれました。
日本文学や哲学が好きな子供で、早稲田大学予科に進学しますが、美術に興味があったので中退して油彩画を描きはじめたそうです。当時、民次のお兄さんがアメリカのオレゴン州にいたので、20歳(1914年)になると兄を頼って渡米します。

民次はアメリカで美術の学校に通って学んだのち、27歳(1921年)には当時美術運動が盛んだったメキシコに渡ります。展示室を見ていくと、その頃の代表作「トラルパム霊園のお祭り」(1930年)が飾ってありました。教会と墓地、赤子と葬列という対比が、民次らしい独特の遠近法で描かれた大作です。
また、この頃の民次はセザンヌなどに影響されて水浴の絵もよく描いていて、その作品も展示されていました。

42歳(1936年)になると、ちょうど勤めていたタスコ野外美術学校が閉校することもあって妻子を伴い帰国します。民次の奥様は東京の聖路加病院で働く看護師でしたが、スペイン公使に家庭教師として雇用されてメキシコで暮らしていたときに民次と結婚して、メキシコ滞在中に長女を、帰国後に長男をもうけています。そのため、この頃から家族の作品が少しずつ登場してきます。

また、個人的にはあまりイメージがなかったのですが、民次は戦争や社会問題に対する批判をこめた作品を何点も制作していて、本展でもそうした時代を見つめる画家の視線が分かるような、民次の人柄が分かるような作品が何点も見られました。民衆の辛苦を描いた「雑草の如く」シリーズなどが展示されています。

帰国後の民次は43歳(1937年)から東京の豊島区で暮らしました。
当時、熊谷守一をはじめ、多くの芸術家が暮らした「池袋モンパルナス」のエリアです。熊谷守一とも交流があったといわれています。この時代の豊島近郊を描いた風景画も飾られていました。メキシコで盛んだった壁画の影響を受けた、遠近法が強調された独特のかたちが面白い作品群です。
この頃、民次はコレクターの久保貞次郎と交流して、一緒に様々な美術活動の構想を語り合い、それが絵本などの形でのちに実現しています。

さらに展示を見ていくと、戦時中に疎開していた瀬戸の風景が登場します。

戦況の悪化に伴い、民次は49歳(1943年)11月に妻の実家のあった瀬戸に疎開しました。
また、74歳(1968年)には愛知県の東春日井(現在の尾張旭市)にも転居していて、愛知県で後半生を過ごして、制作だけでなく児童のための絵本製作や絵画教室などもひらきました。

今回は民次が心を寄せた瀬戸の風景が何点も展示されています。
また、絵本『マハウノツボ セトモノノオハナシ』の原画なども展示されていて、複写されたサンプルで絵本の内容を読むこともできるようになっていました。絵本作家・民次が瀬戸に寄せたまなざしが感じられるあたたかな内容の絵本です。

民次は95歳(1988年)に瀬戸市陶生病院で亡くなりますが、その前に、84歳(1978年)には絵筆を置いています。展覧会では恐らく最後の自画像ではないかと言われている作品「バッタと自画像」が所蔵されている島田市美術館から借用展示されていました。
晩年に繰り返し自画像として描いたバッタが、民次の肖像とともに画面いっぱいに描かれた作品です。

地下の展示室には、主に民次が手がけた壁画の資料も展示されていました。
壁画運動の盛んだったメキシコにいた民次はずっと壁画を作りたいと思っていたそうで、帰国後にやっと手掛けるチャンスをつかみます。職人の方を大事にして、一緒に手掛けていたそうです。
名古屋のCBC会館の壁画「芸術と平和」では、岐阜の矢橋大理石商店さんと一緒に、制作指導者として矢橋六郎を迎えて制作されたと紹介されていました。矢橋さんの壁画は岐阜県内でも現在の県庁の展望室などで見ることができますね(^^)

また、2020年にビルの建て替えてで移設された壁画「TOMATO」の原画と資料もみられました。
名古屋の旧カゴメビルに設置されていた壁画で、ビルの建て替えに伴い、現在は常滑のINAXライブミュージアムに寄贈されています。原画はいまもカゴメ株式会社さんが所蔵していて、そちらも展示されていました。制作の様子が分かる雑誌も置かれていて、カゴメ側の注文はトマトを入れてくれという程度で、あとは民次が自由に楽しく構図を考えていたと書かれていました。
今はこうした壁画が少しずつ見られなくなっているので、こういう機会に民次の壁画が一気に見られるのはとても嬉しいですね。

 

北川民次展のチケットを提示すると地下の常設展示室も鑑賞できます。
海外作品や現代アート、メキシコの作品などとあわせて、三岸好太郎の「海と斜光」などの草土社関係の作品も見られました。

名古屋市美術館の民次展は9月8日までの開催です。
同時開催で瀬戸市美術館や瀬戸信用金庫アートギャラリーでも民次展がひらかれているので合わせてお出かけになっても楽しそうです。

 

柳ケ瀬画廊 市川瑛子

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