2022.11.07
《ブログ》豊田市美術館「ゲルハルト・リヒター」展
柳ケ瀬画廊では「文化の日 名品展観《熊谷守一・前田青邨展》」を開催中です。
さて、「美術の秋」ということで、各地で多くの美術展が開催されています。
先日は豊田市美術館で開催されている「ゲルハルト・リヒター」展に出かけてまいりました。
会場の豊田市美術館は、日本で最も美しい美術館とも呼ばれています。
ニューヨーク近代美術館や東京国立博物館の法隆寺宝物館で知られる建築家・谷口吉生の設計です。
現代美術館なので天井が高く、リヒターの作品がよく映えていました。
ゲルハルト・リヒターは現代美術の最高峰の作家と呼ばれるドイツ人アーティストです。
近年ではポーラ美術館が約30億円で作品を買い求めたことでもニュースになりました。
今回はリヒター自身が所蔵している作品や、リヒター財団の所蔵作品を軸にひらかれた展覧会のため、作家が大切にしてきた作品ばかりを見ることができる贅沢な展示になっています。
また、現代美術というと難解なイメージが持たれやすいですが、豊田会場は年代順に展示がされていたため、初めてリヒター作品に触れる方でも、どのようにリヒターが作品を変化させていったのかがとても追いやすく構成されていたと思います。
上の作品は《モーターボート(第1ヴァージョン)》(1965)です。
広告写真をプロジェクターでキャンバスに投影して描かれた作品です。
リヒターは東ドイツで厳格な美術教育を受けていましたが、現代美術と出会い、「絵画とは何か」「見るということとは何か」といったことを考えて制作を続けていきます。この作品は遠目に見ると写真のように見えますが、近くで見るととても粗く絵具が塗られています。60年代はこうしたフォトペインティングの作品が多く制作されました。
上の作品は《アブストラクト・ペインティング》(1992)です。
リヒター自身が所蔵している作品です。
「アブストラクト・ペインティング」はリヒター自身が作った道具(スキージ)を用いて制作されたシリーズです。1980年ごろから登場していて、巨大なヘラのようなこの道具を、絵具を置いた支持体の上で動かすことで大胆な画面ができあがります。
この作品は支持体がアルミニウムのため、隙間から金属の煌めきがのぞいて、絵具層の重なりや奥行が感じられて面白い作品でした。
上の作品は《8枚のガラス》(手前)と《4900の色彩》(奥)です。
数年前に別の場所で《8枚のガラス》を見たときは、ガラスの足元が均等に固定されているのに、上部は自由に組まれていて、作品そのものの動きが面白いなと思っていましたが、豊田市美術館の大きな空間で奥に大作《4900の色彩》が置かれていると、歩くたびに空間が変わって、色々な見方ができて楽しかったです。
空間が反射と分断で刻まれたり、真正面に立つとガラスの存在感がなくなって奥の作品がストレートに見えたり、色々な「見る」ことを体験させてくれます。
上の作品は《アブストラクト・ペインティング》(2017)の部分です。
以前のアブストラクト・ペインティングに対して、スキージの線のほかに、ペインティングナイフでつけられた跡が登場しています。この作品でリヒターは油絵を描くことをやめて、以降は水彩のドローイングなどを描くようになっていきます。
この作品に到着する前の《ビルケナウ》や、この作品ののちに描いた水彩の《ムード》と連続して見られるので、リヒターがなぜこの作品を最後にしたのかに思いをめぐらせることができました。この作品も作家蔵なので、次いつ見られるか分からない貴重な一枚です。
展覧会は来年1月29日までの嬉しいロングラン展示です。
会期中には映画「ゲルハルト・リヒター・ペインティング」の上映や、色々なレクチャーで、もっと作家を知るためのイベントも多く組まれているそうです。
美術の秋、年末年始のお出かけにいかがでしょうか(*^^*)
***ご紹介した展覧会の詳細***
展覧会名:「ゲルハルト・リヒター」展
展覧会期:10月15日(土)から来年1月29日(日)まで
展覧会場:豊田市美術館
豊田市美術館さんの公式ウェブサイト
Toyota Municipal Museum of Art 豊田市美術館
柳ケ瀬画廊 市川瑛子