柳ヶ瀬画廊

柳ヶ瀬画廊

創業大正8年
熊谷守一・香月泰男・藤田嗣治など
内外洋画巨匠作品取扱の老舗画廊

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2022.01.23

《作品紹介》山口長男 油彩画 ヴェネツィアン・レッド

柳ケ瀬画廊では「新春逸品展」を開催中です。

展示作品の中から、毎日1作家、お薦めの作品とともにご紹介しています。

山口長男先生のヴェネツィアン・レッド(赤茶色)の油彩画がはいりました。
ペインティングナイフで塗った質感が特徴的な、山口先生らしい作品です。

山口先生は1902年に裕福な貿易商の家に生まれました。美術評論家の方が、山口家が家から一昼夜を馬で走っても敷地から出られないという噂は本当かと尋ねたところ「馬は馬でも、小さなロバですよ」と苦笑したと伝わるように、屋敷だけで1000坪を越す大きなおうちだったようです。
十代のころから絵が好きで、1922年には東京美術学校(現在の東京藝術大学)に入学します。この年の美術学校は秀才揃いで、猪熊弦一郎先生、牛島憲之先生、岡田謙三先生、荻須高徳先生、小磯良平先生が同級生にいる世代でした。彼らは仲が良く、卒業後も上杜会というグループを結成し、切磋琢磨を続けます。スター揃いの上杜会については、昨年、豊田市美術館さんで「わが青春の上杜会 昭和を生きた洋画家たち」という展覧会が開かれたので、そちらでご記憶がある方も多いかもしれません。

山口先生はその後、フランス留学を経て、キュビスムに傾倒するなどして、1930年代後半より円や線といった記号的な形態の画面へと移っていきます。また、1950年前後を境に、それまでは色彩豊かだった画面から色数が次第に減っていき、ブラック、ヴェネツィアン・レッド(赤茶色)、イエロー・オーカー(黄土色)の三色へと集約されていきます。
マチエールについても、若いころは「重苦しい」と避けていたペインティングナイフによる複数回の厚塗りについて「養分になってゆく面があるはずですから、もうこれ以上いかないというまで繰り返し、充実が出るまで繰り返します」と触感的な面白さを見つけて採用していきました。

私がとても好きな山口先生のエピソードのひとつに、岡田謙三先生とのお話があります。
山口先生の初個展の会場に、当時、写実的な絵を描いていた岡田先生が来場されたときのお話です。
会場の窓から外を見ると、雨のなかで桃色の洋服を着た女性がバスを待っていたそうです。それを見た岡田先生が山口先生に「あの女の子を見て、どう感じるかね」と声をかけると山口先生はとっさに「僕は立ってるなという感じがする」と答え、それに対して岡田先生は「それが僕と君と違うところだな。僕は桃色がある、とまず思うね」と返したそうです。
山口先生の作品は、ぱっと見ると最初に重厚感のあるマチエールが目に飛び込んでくるので、色彩や質感について語られることが多いです。でも、このエピソードを読むと、実際に山口先生が大切にされていたのは「立っているなという感じ」だったのかなと思いました。

今回展示している作品は、ヴェネツィアン・レッドとブラックの作品です。
ペインティングナイフを用いたと思われるマチエールです。

お時間ございましたらぜひ実作品をご覧にお出かけくださいませ。
皆様のご清鑑を心よりお待ちしております。

 

柳ケ瀬画廊 市川瑛子

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