2022.10.15
《ブログ》「生誕140年 ふたつの旅 青木繁 坂本繁二郎」展(アーティゾン美術館)
柳ケ瀬画廊では「文化の日 熊谷守一・前田青邨展」を開催中です。
先日、久しぶりに東京の展覧会に出かけてまいりました。
東京駅すぐの「アーティゾン美術館」で開催中の、
「生誕140年 ふたつの旅 青木繁 坂本繫二郎」展です。
会場のアーティゾン美術館は、少し前までブリヂストン美術館だった場所です。2020年に全館新築でリニューアルオープンしたことにあわせて、アーティゾン美術館と改称し、以前と変わらず質の高い展覧会で多くのファンに愛されています。
ちなみにブリヂストンタイヤの創業者・石橋正二郎氏は、青木と坂本と同じ福岡県久留米市の出身でした。そのため、青木が早世したのち、彼を生涯のライバルとして思い続けた坂本が石橋氏に青木作品のコレクションを頼み、そのコレクションをきっかけとして石橋美術館・ブリヂストン美術館が開館したという経緯があります。そのため、アーティゾン美術館の青木・坂本展は特別な展覧会で、私も本当に楽しみにしていました。
上記作品は青木繁「わだつみのいろこの宮」(1907)です。
『古事記』に出てくる兄弟、海の漁が得意な兄・海幸彦と、山の漁が得意な弟・山幸彦が道具を交換したところ、山幸彦が兄に借りた釣り針をなくしてしまい、それを探すために海底に降り、海の神様の娘・豊玉姫と出会ったシーンを描いています。
青木繁というとプライドが高く傲慢な性格だったと言われることが多いですが、逆に自分自身に対してもとても厳しく、この神話の題材もよく調べて、青木なりにイメージを膨らませたことが伝わってきます。
上記作品は青木繁「天平時代」(1904)です。
今回の展覧会は青木の代表作のほぼすべて網羅されている展覧会で、青木繁の全貌が見られる展示でした。彼が得意としていた神話に類する作品も多く飾られています。
上記の「天平時代」や「運命」(1904)なども、青木なりの解釈がとても面白い作品です。
麗しい天平の女性たちが集まる「天平時代」は、中心で笛を吹く人物だけが赤く濃い輪郭線で描かれていて、その人にスポットライトが当たっているような雰囲気です。解釈もですが、「絵をこう見せたい/見てもらいたい」という青木の気持ちが伝わってくるようです。
上記作品は坂本繁二郎「放牧三馬」(1932)です。
晩年、周囲の引き留める声があったにも関わらず、九州の八女に戻って静かに制作をつづけた生き方にあらわれているように、穏やかだけれども芯の強い美しい作品がたくさん見られました。
坂本作品も、初期、渡欧期、渡欧後、八女時代、それぞれ充実のラインナップです。
子供のころから好きだったという馬を描いた「放牧三馬」は、美しいブルーの空と、白い雲と白馬、地面と馬の茶色で構成された優しいトーンの作品ですが、よく見るとエメラルドグリーンの瞳の色の強さにはっとさせられます。どの色と色を取り合わせるとお互いが引き立つかがよく計算されていて、坂本の色の使い方の巧さが感じられます。
上記は坂本繁二郎の果物や植木鉢などの壁面です。
ほかにも坂本が多く描いた能面ばかりを揃えたエリアもありました。
同じ場所には今回の展覧会にあわせて新収蔵されて青木繁の面に関する素描類も公開されています。青木の能面は見たことがなかったのでとても勉強になりました。
上記作品は坂本繁二郎「月」(1964)です。
坂本作品の晩年としては月の作品群が飾られています。
坂本といえば馬、能面、そして月をお探しのコレクターの方が多く、弊社でも昨年、2点の月の油彩画を扱ったときはお問い合わせをしばしばいただいていました。暈に囲まれた月の黄色にまず目が惹きつけられ、続けて周囲の雲や空の表現の奥行の深さに視線が動いて、絵のなかで旅できるような、ずっと見ていられるような魅力のあるシリーズです。
10月16日までの展覧会ですので、ギリギリで拝見できてよかったです。
青木繁は28歳という若さで亡くなっていて、対する坂本繁二郎は87歳まで生きて、かつ、最晩年まで描き続けることができたので、画歴や作品のボリュームは(坂本が寡作の作家だとしても)大きく異なりますが、それが全くマイナスに感じられないような「ふたつの旅」の展覧会になっていて、最初から最後まで楽しかったです。
展覧会は明日16日までの開催ですので、お気になられる方はぜひお出かけになってみてくださいませ。青木繁と坂本繁二郎のファンにはたまらない展覧会だと思います。
***ご紹介した展覧会の詳細***
展覧会名:「生誕140年 ふたつの旅 青木繁 坂本繁二郎」展
展覧会期:7月30日(土)から10月16日(日)まで
展覧会場:アーティゾン美術館
アーティゾン美術館さんの公式ウェブサイト
http://www.city.inazawa.aichi.jp/museum/
柳ケ瀬画廊 市川瑛子