2021.05.30
《ブログ》夏目家の売立
昨晩、夏目漱石の娘婿・松岡譲の書いた《漱石の印税帖》という本を読んでいたら、戦前に美術倶楽部でひらかれた夏目家の売立のお話が出てきました。
偶然にでも美術のお話が出てくると嬉しいです。
今でこそ小説家として知られる漱石ですが、当時は官費で海外留学したエリートで、美術の世界でも文展批評や蒐集をし、自身も書を書くことでも知られていました。漱石の文学には、熊谷守一の同級生の青木繁や坂本繁二郎の作品も登場しています。
この本には、その漱石の死後に東京で開かれた夏目家の売立の話題が書かれていました。
短い文章ですが、漱石の妻・鏡子と売立について話した相談や、晩年の鈴木三重吉が愛蔵していた《虞美人草》の原稿を売立に出してはどうかと持ち掛ける話が登場しています。
先日もマレットオークションさんにて村上春樹さんの原稿が出ていましたが、この本を読む限り、昔は作家の原稿が価値のあるものとして扱われることはあまりなかったようです。
ホンのなかで、松岡がこれからはこういうもの(作家の原稿)が価値が出ますと美術商を口説いていましたが、現代では本当にそのようになっていることを見ると慧眼ですね。
ちなみに《虞美人草》の原稿は、漱石が好きで好きでならなかった三重吉が手放せなかったのでこのときは売られませんでしたが、近年の図録では漱石ゆかりの岩波さんの所蔵になっているようです。このあたりの持ち主が変わった経緯にもいろいろなエピソードがありそうですね。
柳ケ瀬画廊は洋画廊のため、作家の原稿を扱うことはほぼありませんが、以前に熊谷守一先生が雑誌のために書き下ろした挿画の原画を何枚か取扱ったことがございます。
熊谷守一先生は字も素敵ですので、いつか原稿も扱ってみたいと思います。字はその方の性格がでるので素敵な方の字は素敵です。
柳ケ瀬画廊 市川瑛子